桐生川のざぐり穴と呼ばれる洞窟に住んでいた可愛い河童の話です。
ざぐり(座繰り)とは、座って繭から糸をたぐりながら糸枠に巻き取ることです。
この糸巻き機のことを座繰り機と言います。
桐生川上流のざぐり穴と呼ばれる洞窟で人間の娘に化けてざぐりをしていた優しくてかわいい河童がいたというお話です。
桐生は白滝姫の伝説にあるように古代より織物が盛んであり、関ヶ原の戦いのときの東軍の旗に用いられたり、江戸時代には徳川幕府の保護を受け、織物の町として発展してきましたので、各地に織物にまつわる伝説が残っています。
むかしざぐり穴と呼ばれる洞窟に可愛い河童が済んでいました。
お天気の良い日には可愛い娘に姿を変え、岩の上で座繰り機を回して糸巻きをしていたので、ざぐり穴の河童と呼ばれて人々からも愛されていたのです。
糸巻きに疲れると近くの農家に出向いて好物の豆をおねだりして、美味しそうに食べるとまた座繰り機に向かい糸巻きを続けたそうです。
この河童は悪さをするでもなく、とても美しくかわいかったので村の人々も愛おしみ、その姿に見とれていました。
ある日のことこの河童がいつものように村へきて好物の豆をおねだりしたので、居合わせたおかみさんが豆をあげようとしましたが、あいにく豆が切れていました。
やさしいおかみさんは、「今日は大豆がないんだよ」などと言うとがっかりするだろうなと思い、袋に大豆と同じくらいの大きさの小石を詰めて渡しました。
しかし袋を受け取り大喜びで帰っていく河童の後ろ姿を見たおかみさんは不安な気持ちに襲われました。
袋を開けた時、騙されたことを知って河童が悲しむだろうなと思ったからです。
その日以来河童が岩の上でざぐりをする姿が見られなくなりました。
おかみさんはいたたまれなくなり、ざぐり穴をそーっと訪れてみることにしました。
すると穴の中はもぬけの殻、河童の姿は見当たりませんでした。
村の人も手分けをして河童を探しましたが、ついに河童の姿を見つけることはできませんでした。
今となってはざぐり穴と座繰り機を回していた岩の姿に、愛らしく美しい河童の娘姿を忍ぶしかありませんでした。
参照サイト KAIC・・桐生の民話「河童とあめ玉」
元のお話をもっとじっくり読みたい方はKAIC桐生民話 河童とあめ玉→さぐり穴の河童をご覧ください
古来より織物が盛んだった桐生では、機織り関係の仕事に奉公に出された女の子は珍しくなかったと思われます。
また、染色などと桐生川の清流は切っても切れません。
私が子供のころは、染色で川の水が染まることも良くありました。
そういった暮らしの中でエピソードが河童伝説になったのかもしれませんね。
物語を読んで感じることは、愛らしい河童が姿を消してしまった寂しさと同時に、優しいおかみさんが、河童の女の子に豆だと偽って小石の入った袋をあげたという部分に少し違和感を感じます。
結果的に河童を傷つけることがわかっていて騙したおかみさんが優しさ故と言われても、どうもスッキリ割り切れない気持ちが残るのです。
あくまでも伝承ですので、話が伝わる間に変わった部分もあるかと思いますが、もう少し現代人が自然に感情移入しやすい話にならないものかと思っていたところ、これはと思う話を見つけました。
河童と民話館というサイトの中で、いくら愛らしい姿をしていても河童と言う未知の生物への恐怖感もあったのではないかと言う解釈で、Albert 佐々木氏が創作を加えて編集しなおしたお話が秀逸ですのでご紹介します。